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INTERVIEW

インタビュー

カギを握るのは現場主導の創意工夫。釧路空港が挑むAI案内サービスのベストプラクティス

2025.05.07
eyecatch

キャラクター✕AIで企業の課題や要望を解決するソリューション事業を展開中のPictoria。今回は北海道エアポート株式会社と連携し、釧路空港の案内所にAIアバターによる案内サービスを設置した事例をご紹介します。単に導入するだけでなく真に“使われる”サービスにするために必要なものは何か…釧路と東京をリモートで繋いでお話をうかがいました。


北海道エアポート 釧路空港事業所 管理部 総務課 課長補佐 

羽柴 恭兵様(上画像)


北海道エアポート 総合企画本部 企画部 情報企画課 課長 

島野 創太様(下画像)


導入しっぱなしではなく、使われるサービスを目指して

── 今回のAI案内サービス導入の背景を教えてください

島野:前提として北海道エアポートが運営する道内7つの空港に共通する課題がいくつかあるのですが、対策の優先度が高いもののひとつが人手不足。もうひとつはインバウンド観光客の増加に伴う多言語対応でした。北海道エアポートではこういった課題に対してさまざまな角度から手を打っており、今回のAI案内サービスもその一環です。

羽柴:釧路空港では案内所のスタッフが通常3名体制のところ退職が重なり1名しかおらず、営業課や総務課のメンバーが交代で対応する状態でした。その結果、それぞれの課で本来やるべき業務がどうしても滞ってしまいがちだったんです。

── AI導入にあたってまず何から着手されたんですか?

島野:情報収集からですね。調査によって現在AIがどこまでプロダクトとしての完成度に到達しているのか、市場ではどれぐらい活用されているのか、といったあたりをリサーチしました。そこで私が感じたのは、導入現場では思った以上に使われていないな、ということ。おそらく既存のプロダクトをそのまま釧路空港に持っていっても同じように放置されるのではないか、という認識をプロジェクト内で共有しました。

ではどうすれば使われるのか。その答えを持たないまま、ある日、東京で開催されていたAI博覧会に足を運んだんです。そこで出会ったのがPictoriaでした。

明渡:あのときは確か島野さんが閉場ギリギリのタイミングでいらっしゃって、ご挨拶と名刺交換だけしたんですよね。すごい人出で会場もごった返していて。


島野:博覧会では他社サービスとの比較などできなかったんですが、そのあとPictoriaさんからのアプローチが良かったんです。提案内容もさることながらレスポンスが早い。あとコミュニケーションもスムーズでした。

── Pictoriaの最初の印象はいかがでしたか?

島野:弊社は交通インフラ事業ということもあるので、最初はミスマッチかも、と思いました。ただお話を聞いていく中で、ありきたりなものよりもみんなで創意工夫して答えのないものを探しにいくほうが絶対に面白いだろうな、という考えが固まっていきました。好奇心が刺激されたんですね。

明渡:あのとき島野さんの中ではすでにイメージが固まっていたんだと思います。最初は僕もキャラクター寄りではなく機能面やスペックのほうが刺さるはずだと勝手に思い込んでディスカッションに臨んでいました。でも島野さんはリサーチの段階でAIの機能自体はどこも変わらないという結論を出されていた。そこで機能推しをやめたんです。

── キャラクターで勝負をかけたわけですね

島野:いろいろ一緒に育て上げながら答えを見つけられそうだ、という感触が得られたのがいちばん良かったですね。せっかく導入するなら使われるサービスじゃないと意味がありません。しっかりと空港をご利用になるお客様の利便につながるステージまで、Pictoriaさんとなら二人三脚でいけると思ってタッグを組むことを決めました。

ただし、実際に二人三脚を組むのは私ではなく、あくまで釧路空港の現場です。ここが最初の大きな壁になるだろうと考えていました。


いかに多くの人を巻き込んで“ジブンゴト”化するか

── 釧路空港の現場ではAI導入について当初どんな感想を抱きましたか?

羽柴:このところAIの技術や精度がどんどん進化している、という話は聞いていましたが実際に利用したことはなかったので、期待半分不安半分というのが正直なところでした。多言語対応や音声に対する反応がいったいどれぐらいのレベル感なのか。

ただ現場に展開したところ、思いのほか反応は悪くありませんでした。釧路空港の利用者様の中で案内所をご利用になるのは年配の方が多いという認識のもと、どうやったら年齢層の高いお客様にも使っていただけるようになるか、という意見が出たりして。すでに現場ならではの課題感に意識が向いているようで頼もしかったです。

もちろんその前に人手不足が少しでも解消されるならありがたいという気持ちがあったことも事実。速度やら精度といった問題より単純に助かるね、という声もあがっていました。

── 羽柴さんのPictoriaに対する最初の印象はどうでしたか?

羽柴:まず社名を聞いてHPを拝見して思ったのは、日ごろお付き合いしている会社さんにはなかなかないPOPな感じに驚きました。AI VTuberなんて未知の領域でしたから(笑)こういう事業があるのか、と。

それから明渡さんとはじめてお会いして、そこでAI端末を触らせていただいたんですよね。その時の感想は「ここまで進化しているのか」というもの。表情にしても動きにしてもリアリティ抜群で驚きました。

島野:当初からPictoriaさんは釧路に何回も足を運んでくれたんです。そのおかげで現場の熱量もどんどん上がっていったんですよね。

明渡:我々としてはとにかくイメージをふくらませてほしい、という一心でした。現場のみなさんに当事者意識を持っていただくことが何よりも大事ですから。早いタイミングでいかに多くの人を巻き込めるか、いろいろな工夫と仕掛けを考えていました。幸い、島野さんが盛り上げる場をいくつか用意してくださったので助かりました。


── 現場では何から着手したんですか?

羽柴:まずは空港職員総出でAIが案内する基礎知識を入力することからはじめました。特に質問に対する回答については手元にあるマニュアル類を活用しながら入力したんですが、肝心のマニュアルもカッチリ作り込まれていたわけでなく、さらに情報も古かったので都度アップデートしながらAIに読み込ませていく作業に取り組みました。

通常業務の傍らであり、負荷も時間もそこそこかかったのですが、結果的にこれがすごくいい作業でした。あらためて自分たちの地元である釧路の観光をはじめとする地域情報のブラッシュアップになりましたし、AI導入直前のタイミングで入社してくれた新人案内スタッフの教育にも役立ちました。

でも何よりよかったのは全員で入力したおかげでAIキャラクターに愛着が湧いたことですね。あの作業をきっかけに一人ひとりがより主体的に、当事者意識を持ってAI案内サービスの立ち上げに向き合うようになりました。

── いい話ですね!実際に案内所に置いてみてどうでしたか?

羽柴:最初は案内所の正面にサイネージを設置して、案内スタッフとの二枚体制で実証実験をスタートしたんです。でも案内所にスタッフがいるということがわかると、AIがあったとしてもついスタッフに声をかけてしまうのが人間の心理。はじめのうちはAIになかなか触れてもらえない日々が続きました。

そこでみんなで相談して、思い切って案内所からスタッフを引き上げてAIだけにしてみたんです。そうしたら利用件数が少しずつ伸びていきました。見ていると日本人よりも外国人の方が抵抗なく、積極的に話かけてくれていましたね。母親がカウンターで手続きしている間にお子さんが喋りかけてきたり。


ネーミングからキャラ設定、新機能の提案まで

── 現場発の創意工夫というか試行錯誤がはじまった感じですね

島野:釧路空港からAIだけでどこまでできるかやってみたい、という話が持ち上がったのが1月の後半で、そこから2月末まで実験してみたんです。あのあたりが大きな節目でしたね。現場主導のアイディアがどんどん出てくるようになりました。釧路で自走して自発的にいろんな改良ができるようになった時点で、これはいけると手応えを感じました。

印象的だったのは北海道エアポートの本社と釧路空港、そしてPictoriaの三者をつなぐグループチャットがあるんですが、いつの間にか私を経由せず釧路空港の担当者とPictoriaさんが直接やりとりをするようになっていて。現場の熱量を感じてうれしくなりましたね。普通はなかなかそこまでいかないものですから。

── AIキャラのネーミングやキャラ付けも現場のみんなで手がけられたそうですが

羽柴:そうです。とはいえ空港内にこれまでAIのキャラクターデザインをやったことがある人はいないので、最初はPictoriaさんに先導していただきながらでした。

明渡:どんなキャラがいいですか?と聞いても出てこないと思ったので、まずは奇抜な案をこちらからお出しして、みなさんで考える土壌をつくるところからお手伝いさせていただきました。ここからさらに議論を深めていけばもっと尖ったキャラが出てくると思いますが、それは引き続き育てながらやっていこうと考えています。

羽柴:名前もみんなで、北海道っぽさや釧路らしさってなんだろう、とディスカッションして『冬野千鶴』と決めました。“構ってギャル”の26歳、釧路出身で釧路空港に初めての就職を果たし、現在試用期間中というところまでキャラクターを作り込みました。名前が付いたあたりから現場での盛り上がりも最高潮を迎えましたね。


── プロジェクトの離陸としては上々ですね

明渡:みなさん通常の業務が忙しいはずなんですよね。緊張感を保ちながら、かつ少ない人員で安全を守りつつ、正確さも求められる環境なわけです。傍流のような仕事に果たしてどこまで打ち込んでくれるか。これが今回のプロジェクトの成否を握るカギだと思っていました。そのためにいかにみんなを巻き込むアイデアを数多く出すか。ここは意識するだけでなく実践まで踏み込んでいました。

島野:私もこのプロジェクトにかかりきりにはなれなかったので、現場が盛り上がらないことには成功はありえないと思っていました。そんな中、釧路空港の人たちがPictoriaさんと一緒にやるのをすごく楽しんでくれた。キャラクターを作ったり機能を追加したり、運用の仕方にまでアイデアを出すなど現場側がどんどん活性化していったんですよね。

羽柴:冒頭でもお話した通り、導入前はどこまでの精度なのか正直見えていませんでした。でも導入して3ヶ月、非常にスムーズな働きを見せてくれています。AIにどんどん新しい情報を追加したり、コンテンツ企画でもブラッシュアップも目下継続中です。なにより自分たちでやるという意識がみんなの中に生まれたのはすごいことだと思います。

── 利用客の反応はいかがでしょうか?

羽柴:さまざまな取り組みが少しずつ功を奏してきているようで、想定以上に頻繁に使ってもらえています。日本人のお客様にも想定以上に抵抗なくご利用いただいているようです。案内所が人から機械に切り替わるということについて抵抗感のあるお客様からご意見をいただく懸念もありましたが、今のところは一切ありません。千鶴ちゃん、毎日がんばっていますよ(笑)。


日本でいちばんAIに詳しいエアポートとして

── 今後の展望などをそれぞれの立場からお聞かせください

羽柴:4月以降はAIのサービスと人のスタッフを併存しながら案内所を運営しています。AIに任せるのは定型の質問と回答。ここの内容を改善しながら任せる範囲も広げていき、それだけではカバーしきれない細かいケアは案内スタッフで担っていきます。負荷が分散されるぶん、人が担うサービスもより充実させていきたいです。

島野:釧路空港での導入事例をさらに価値あるものにブラッシュアップし、他の空港からもリクエストが来るような現場発のムーブメントになってほしいですね。

羽柴:いずれは千鶴ちゃんに会いに来るために空港に来た、というお客様を増やしたいですね。それぐらい空港におけるAI案内サービスが市民権を得られる日が来ることを願っています。なんといっても冬野千鶴は釧路空港にしかいませんから。

── Pictoriaから見た釧路空港の変貌ぶりはいかがでしたか?

明渡:釧路のみなさんはすごく話を聞いてくださって、機材をお渡ししてから実際に使うまでの期間でどんどん進化していくのを感じました。AIと人との役割分担を解像度高く、実感をもってとらえている方々だと思います。間違いなく日本でいちばんAIに詳しい空港です。


千鶴に関してはもうウチの子ではなくて(笑)釧路空港の子です。だけど生みの親としてはもっともっと魅力的にして、お客様がグッとくるように磨きをかけます。AI案内のアバターが実際に人を集める。このチャレンジに成功すればきっと世の中も変わるはず。そこを釧路空港、そして北海道エアポート様と一緒に目指していきたいです。

島野:確かに、全ての空港に釧路空港モデルが広がっていくといいですね。そのためにはPictoriaの存在は本当に欠かせないと思います。AIで全て解決するみたいな夢物語もありますが、実際には限界もあるわけです。だからこそAIの良さを知り尽くしている会社と結びついて、AI本来の使い方で業務推進や付加価値を生み出していければいい。そういう未来において、Pictoriaさんは重要な役割を果たすと思います。

明渡:ありがとうございます。今回はAIのソリューションが世の中に浸透するためのテストランにも近いPOCができたと思います。ここできちんと使われることが、他のところでもきちんと使われることになる。これからも丁寧に、みんなが納得しながら進められる速度で、なおかついちばんいい形で発展させていきたいです。

── ありがとうございました!


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