キャラクター✕AIで企業のさまざまな課題や要望を解決するアライアンス事業を積極的に展開するPictoria。今回は株式会社大和証券グループ本社ほか3社と協業開発されたAIオペレーター「KOTO(コト)」をご紹介します。プロジェクト責任者である大和証券グループ本社の植田様を訪ね、開発時のエピソードからPictoriaとタッグを組んで得られた気づきに至るまで、さまざまな角度から振り返っていただきました。
植田 信生 様
株式会社大和証券グループ本社 デジタル推進部長 兼 大和証券株式会社 デジタル推進部長
1997年、大和証券入社。支店営業・経営企画部・大和ネクスト銀行での業務の後、コーポレートIT部にてDX施策の企画・開発を担当
2021年4月よりデジタルIT推進室長として、デジタルIT人材育成施策の企画・運営を指揮
2023年10月より現職にて、全社的なデジタル推進を指揮
いままで全く経験したことのない領域
ーまずは今回のアライアンスの概要を教えていただけますか?
植田:大和証券のグループ会社であるFintertech株式会社が提供する、クラウド型応援金サービス「KASSAI(カッサイ)」のお問い合わせに対応するAIオペレーターを企画、開発、実装するプロジェクトでした。
ープロジェクトにおけるPictoriaの位置づけは?
植田:Pictoriaさんにはフロントエンドの一部とバックエンド全般の開発をご担当いただきました。このプロジェクトは大和証券グループ本社の旗振りのもとFintertech株式会社、株式会社大和総研、株式会社Pocket RDの5社がそれぞれの強みを活かしてタッグを組んだことで実現できたといっても過言ではありません。
ー金融大手としては先進的な取り組みですね
植田:もともと大和証券グループでは早いタイミングで生成AIの活用に注力していました。初期段階としては社内での利用が中心で、主に効率化や生産性向上を目的とした取り組みをいくつか動かしていたんですね。
明渡:会社全体でChatGPTを使うようになったのも相当早かったですよね。2023年の4月でしたっけ?業界内ではトップクラスに早かったと思います。
植田:AIなどの最先端技術を導入する場合、普通は使える部署を限定したりしますが弊社はいきなり全社員が使えることにこだわりました。おかげで現時点でもかなりの利用度合いではないかと見ています。普段の業務を効率的にする使い方などの意見が集まるコミュニティも盛んです。そこからこういう使い方もあるんだ、といった気付きも広がって、良質な情報交換が進んでいますね。
ーそんな中での社外に向けての生成AI活用ということですが…
植田:もともと生成AIの活用は社内にとどまらず、顧客の体験価値向上まで広げていきたいという思いがありました。顧客と向き合う業務というとまずコンタクトセンターが想起されます。ここで生成AIが簡単なお問い合わせに応じることができれば、担当者は人にしか対応できない業務に集中できるようになります。
ー確かに、お問い合わせ対応は想像しやすい領域です
植田:ただ、お客様対応のようなサービスを生成AIにやらせるとなるとクリアしなければならない課題が多すぎるんです。金融商品取引法などの規制もあり、いきなり本業での活用はちょっと難しそうだと判断しました。万が一間違った情報を伝えてしまうとお客様にご迷惑をおかけすることになります。
ー確かに、株取引はセンシティブな面もあるのでハードルが高いのもうなずけます
植田:そこでまずはFintertechのKASSAIを対象にPoC(概念実証)を進めることにしました。KASSAIはクラウドファンディングのように事業者や個人が資金を募り、出資者に返礼として商品などを送るサービスです。イベント等におけるマネタイズに課題を持たれている方や、既存のイベントや取り組みに“チャリティ”といった付加価値を設けることで差別化を図りたい企業や団体様と非常に相性が良く、お問い合わせいただく件数も伸びてきていたところだったので、親和性が高いだろうと。
ーPictoriaとはどういったきっかけでつながりが?
植田:お客様向けにAIを活用したサービスを、と考えたとき、なるべく人間のような対応をできるようにしたかったんですね。Pictoriaさんの取り組みは以前からネットで拝見していたので、もしかするとベストパートナーたりうるかも、と思っていました。プロジェクトの若いメンバーからも名前があがってましたしね。
明渡:最初にお話をうかがった時は、実現に向けて詳細をまさに検討しはじめたというような段階でしたよね。またスケジュールもタイトだったので「これ、できるかなぁ」という僅かな不安を感じたことを覚えています。ただミーティングを重ねていくうちにプロジェクトのゴールがどんどん具体化されていったので、これなら進めていけそうだと確信しました。
ーAIオペレーターを実装するにあたっての課題は?
植田:ふたつありました。ひとつはいままで全くやったことのない領域である、ということですね。社内向けの効率化は経験済みですが、お客様に向けてのサービス提供を生成AIで行うのは初の試みです。そしてもうひとつは明渡さんもおっしゃったタイトなスケジュール。リリースまで2ヶ月という短い期間でどこまで実現できるのか、という課題です。
ー期間が短いのは何か理由でもあったんですか?
植田:もともと何でも早くやる、というのが基本的なスタンスではあります。特に最近のデジタル技術は進歩が早いですよね。検討をはじめて何ヶ月もかけているようでは技術はあっという間に陳腐なものになってしまいます。そしてせっかくやるならKASSAIを提供するFintertechの設立記念日にリリースしたいという思いもありました。結果的に2ヶ月という期間だったからこそチームの結束も高まったので、良かったんじゃないかと思っています。
キャラクター設定から作り込むことの新鮮さ
ー植田さんがPictoriaに最も期待したことは何でしたか?
植田:やはりAI VTuberで実績をお持ちの企画力と技術力に魅力を感じていました。今回デビューしたAIキャラクターは「KOTO(コト)」という名前で活躍中なのですが、Pictoriaさんにはキャラクター設定、合成音声の制作、各社成果物の結合、そして自然な対話を生成するAI開発など、KOTOに息を吹き込む役割を担っていただきました。
ーAIについては大和総研も十分な技術を有していると思うのですが…
植田:今回、あえて社外のスタートアップと組んだのには理由があります。確かにこれまではスタートアップの方々との接点はあまりありませんでした。ただDXやAIなど技術の進歩が飛び抜けて早い領域については、いままでの我々の考え方や仕事への取り組み方だけでなくスタートアップならではの覚悟や情熱を学ぶべきだろうと。そういった想いから組ませていただきました。
ー明渡さん、そのあたりの“想い”は最初から伝わっていましたか?
明渡:そうですね、割とプロジェクト開始早々にお話いただいてました。逆に僕らが驚いたのが大和証券さん側のスピード感とフレキシビリティです。プロジェクトを進めるにあたって進行ツールがあるんですが、大和証券さん側に利便性含めてツール導入の提案をしたところ、なるべく早く社内で使えるようにと動いてくださったんです。
ーそれはすごいですね
明渡:やはり大企業ですからタッグを組んでもいろいろ細かいところでスタックするかもしれないと予想していたのですが、いい意味で大きく裏切られましたね。提案へのリアクションは想定の3倍は早かったです。
ープロジェクト本体側もかなりがんばったんですね
植田:もちろんそこは十全に協力できるよう体制を整えましたからね。
明渡:この短期間でその意思決定できるのか?というような局面でもチームのみなさん、スタッフから上長までバッと集まってその場で決めてしまうんです。関わっている方の人数と役職に対して意思決定がめちゃくちゃ早かったことを覚えています。
ー意思決定を早くするためにご苦労なさった点などあれば
植田:現場におけるリーダーシップと適正なリスクテイクは強く意識しました。スピード感を持ってプロジェクトを動かす以上、どこかでリスクを取る覚悟をしないといけません。ひとつひとつを経営陣に確認しながら進めるのではなく、われわれ現場でジャッジする。それがいちばん大事なんだろうなと思います。
明渡:植田さんはいつも会議で「これは捨てよう」とおっしゃっていましたよね。それを見て、捨てるって明確な意思決定しているな、と毎回感心していました。そのあたりはもう、腹くくってやってらっしゃったんですよね。
植田:それこそリスクテイクですよね。残り期間が3週間、2週間と減っていく中で、どこにリソースを投入するか。それはそれはシビアなジャッジの世界でした。2ヶ月の間でも節目がいくつもあったので、その都度判断していましたね。スピードもクオリティも同じレベルでプライオリティ高かったですし。
明渡:お話を伺っているだけでヒリヒリします。
ーそこまで明確に捨てきれる植田さんのジャッジがすごいです
植田:もともとの目的が何だったのか、何をしたかったのかを軸においているんです。それを実現するためにいろんな手段があると思いますが、最低限はじめに掲げた目標をまずは達成させること。これがブレていないかが肝要です。いくつか妥協させてでも絶対に実現させるという意志ともいえますね。
明渡:僕らもBtoCで直接ユーザーさんにサービスを提供してきた立場なのでわかるのですが、捨てるのってすごく難しいんです。もっとよくできるのにとどうしても思ってしまう。クリエイター志向といってしまえばそれまでなんですが。だけど植田さんがジャッジできたのは、こことここは捨てたとしてもサービス提供の形になる、という確固たるイメージが常にあったからだと思うんですね。
ービジョナリーなプロジェクトマネジメントだったわけですね
明渡:完全にそれに救われましたね。最終日めっちゃ緊張しましたが(笑)。
植田:まあリリース後に改善できるポイントだな、という判断で進めたところがほとんどですけどね。スピードとクオリティ重視で、機能面はフェーズを切ってブラッシュアップしていけますから。
ーPictoriaの仕事ぶりはどうでしたか?
植田:期待はしっかりクリアしてくれました。いちばん感じたのは仕事の進め方と物事の考え方、そして決め方です。ここは私たちと比べると圧倒的に早い。今回は私たちも頑張りましたが、それでも叶わない早さです。大和証券の場合、何かひとつ開発しようとなると事前の説明からはじまって相当時間がかかるのですが、Pictoriaさんはその点においてスピードが違います。さらに出てきた成果物のクオリティも高い。そのあたりは勉強になりましたね。
ーさきほどツール提案の話がありましたが、印象に残っている提案などあれば
植田:そうですね、これも一緒に組ませてもらってよかった点のひとつなのですが、われわれの中だけで出てくる発想というものには限りがあるんです。しかもやったことのない領域ですし。そこに対するプロの提案には学ぶべき面がたくさんありました。
いちばん印象に残っているのはキャラクター設定へのこだわりでしたね。聞かれたことに答えるのはもちろんできるけどその手前の部分、趣味や性格など人物を構成する背景まで細かく作り込むんです。このあたりは踏み込んだことのない世界だったので、なるほどそこからつくっていくのか、と驚きでした。これから生成AIをもっといろんなところで展開していくのであればしっかり押さえておかないといけないポイントだなと。
問い合わせ件数が大幅に増加
ーリリース後の反響はいかがですか?
植田:好意的な意見がかなり多くて手応えを感じています。こういったものをリリースするとだいたい賛否が半々なんですよね。大和証券という対面証券を軸とする企業が生成AIというまだ世に出て日が浅い技術を活用する。どうしても一定のネガティブな声が生まれがちなんです。にも関わらず聞こえてくるのは、お客様向けのAIサービスをこの短期間でつくりあげたことに対する高い評価がほとんど。やってよかったと心底思っています。もちろん改善すべきポイントはまだまだありますけどね。
ー業界初(※)の取り組みでもあります。社内の反応は?
植田:やはりポジティブな反応が多いですね。同じことをやるにしても一番最初であることとそれ以外では社員のモチベーションも変わってきます。今回のプロジェクトが業界初であることは大和証券のメンバーにとっても大きな士気高揚につながったはずです。
他の部署からは自部署での活用について相談を受けたり、あるいは派生して業務改善に関する問い合わせなども増えています。
ー実際にお問い合わせは増えたりしているんでしょうか?
植田:お客様からのお問い合わせ件数は大幅に増えています。KOTO導入前と後ではかなり大きな数値変化が見られます。やはりお客様にとってお問い合わせはハードルが高いもの。特に金融商品などは知識や情報を持っているかどうかが鍵となります。人に聞くのは恥ずかしい、といったハードルがあるんですね。それがアバターやデジタルヒューマンなら気にすることなく質問できるわけです。
ーそのあたりはキャラクター設定の時点で意識されましたか?
明渡:そうですね、最初のキャタクターとしてそのあたりのケアは十分できるようになっています。これからキャラを増やしていくならもっといろいろな性格にチューニングしたり、さまざまなターゲットの属性にあわせて使いやすさを考えていきたいと思っていますが、まずAIと話すことに抵抗がない方々のペインを取り除くことはできました。
ーこの成功を糧に、いずれは証券本体でもAIキャラクターの起用がありそうですね
植田:いずれは、そうですね。国をあげて貯蓄から投資へ、と呼びかけがある中で現状維持ともいかないはずでしょうから、いまから準備しておくこともデジタル推進部のミッションだと認識しています。
ーそこに大和証券さんが先陣を切って乗り込んでいけるといいですね
明渡:いまのAIってむしろ言ってはいけないことに対して言わなすぎるみたいな傾向になっているので、おそらく証券の世界でも浸透していくはずだと思います。実際にどういう打ち手、どういう作り方をすべきかというプラン自体はいくつか思いついていて。それを実際に大和証券さんにお出ししつつフィードバックをいただく、というすり合わせができれば実装までのスピードも早くなりますしね。
あとはPictoriaとしての提案量も大事だなと思っていて。数少ない提案とか、打ち手はこれしかないです、みたいな状態では話が進みません。やはりたくさん選択肢をお出しして、選んでいただく。これを繰り返すことで解像度を上げていければいいなと思っています。
ー今後ますますAI活用に期待できそうですね。具体的な計画はあるのでしょうか?
植田:大和証券グループ本社ではデジタル戦略を掲げています。その中でうたっているのは最先端テクノロジーを全面的に活用してお客様の資産価値を最大化する、というもの。お客様に対してどのような価値をご提供できるのかということを常に考えて、その実現に向けてテクノロジーを活用していきます。その文脈でAIができることはもっとたくさんある。まだ具体的には言えませんが、今後いくつか打ち出していきたいと考えています。
ーそうした計画の中にPictoriaとのタッグは?
植田:そうですね、十分考えられます。大和証券の中から出てくるアイデアは歴史の中で培われてきた価値のあるものです。しかしそれとは別にPictoriaさんのような存在からいただく提案はものすごく大事なんです。DXとは世の中を変革していくことにほかなりません。で、あれば自分たちのこれまでの考え方に固執していてはダメで、新しい発想を積極的に取り入れていきたい。Pictoriaさんにこれからも期待するのはその点ですね。
ー今回のプロジェクトを総括すると?
植田:5社がタッグを組むという協業スタイルでしたが、それぞれの会社が得意分野と強みを持ち寄ってやるという発想でした。その中で思ったことをお互い忌憚なく意見してもらう。議論を重ねて進めていくことができたのが成功の鍵を握っていたかなと思います。
Pictoriaさんにフォーカスすると期待以上の仕事をしていただけたのはもちろん、大和証券の社員に好影響を及ぼしてくださった点も感謝しています。具体的には仕事への取り組み方、スピードに対する考え方、細部へのこだわり、そして熱量ですね。そういったところが弊社の社員の中で少しずつ変わっていくきっかけとなったかと感じています。
明渡:期待以上と言っていただけて本当に良かったです。植田さんのジャッジや行動力、大企業でリスクテイクする姿を目にするにつけ、カッコいいなと思っていました。そんな植田さんに選んでいただけて期待以上との評価を獲得できたのは感無量です。
私自身は学生起業の身で、大企業との仕事の進め方とか未知の世界でした。だけどいつも通りのフリースタイルから出てくるアイデアを、自由な発想でぶつけていいんだということが今回わかりました。これからもお力添えできればと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
ーおふたりともありがとうございました!
(※)大和総研調べ。ChatGPTが発表された2022年11月から2024年3月21日までの期間で、銀行、証券、信託銀行、生命保険、損害保険、カード、リース会社の売り上げTOP5のプレスリリースを調査